<エジプト・ナセル湖にナイルパーチを求めて>(前編)
世界中を見渡して、夢のあるゲームフィッシュをいくつか挙げろといわれたら、そのひとつにナイルパーチを含めることになるのは間違いない。
日本のアカメ、オーストラリアのバラマンディといったアカメ族の中の最大魚。優に100キログラム以上に育つ淡水の巨大魚である。
そのナイルパーチを狙って、4月と5月に2度、エジプトのナセル湖へ出かけた。
世界最長の流程を誇るナイル川にアスワンハイダムが建設されたのは、1964年のこと。そのアスワンハイダムの貯水によって出来上がったのが、釣行の舞台となったナセル湖である。
ダム湖とはいっても規模はケタ外れに大きい。
ちなみにナイル川の流程は6700キロメートル。
ナセル湖の規模は南北に500キロメートル、東西に10キロメートル。
そのとてつもなくでっかい湖で、でっかいナイルパーチに挑むのが今釣行の目的。4月のロケハン釣行を経て、5月のテレビ取材本番に挑んだのであった。
ここでの釣りのスタイルは、サプライボートと呼ばれるマザーシップと、フィッシングボートを連ねて移動しながらのキャンプ釣行となる。
サプライボートは食事を作るためのボートで、食材と飲み物を沢山積み込み、専属のスタッフ数名が乗り込んで快適なキャンプ生活の手助けをしてくれる。
従って、暗くなるまでたっぷり釣り、サプライボートに合流して食事をした後は、フィッシングボートに作り付けのベッドに潜り込んで満天の星を眺めつつ心地よい眠りにつき、目覚めたら朝めし前に陸っぱりでちょいと釣り、朝食後、今度はフィッシングボートに乗って本格的な釣りを開始するという釣り三昧が可能となる。
昼は、再びサプライボートと合流して食事を摂り、のんびり昼寝をするもよし、ナセル湖に飛び込んで泳ぐもよし、もちろんすぐさま釣りに出かけるのも自由である。
4月に訪れた際の湖の水温は、およそ25度。日中の気温は35度以上とかなり高かったため、昼食後の水浴びが極めて心地よく感じられた。
ただし、気温は高いものの砂漠気候で乾燥しているせいか不思議なくらい汗をかかない。
そして夕方には決まって爽やかな風が吹き、適度に下がった気温と合わせて快適な眠りを約束してくれるのである。
4月の釣行では結局、トローリングで釣れた27キログラムを筆頭に、合計30尾以上の釣果をあげることができた。
さて、5月中旬に出かけたテレビ取材本番。
成田国際空港からフィリピンのマニラ空港、タイのバンコク空港を経由し、22時間をかけてカイロ空港に到着。
タラップを降りると、午前6時だというのに焼けるような暑さが襲いかかってくる。
わずか1ヶ月。正確にいえば、前回エジプトを離れてからたった3週間しか経っていないのに、気温はガラリと変っている。
あっという間に春から夏へ、初夏から盛夏へ季節が移り変わってしまったような感じだ。
気温にすればおそらく10度は違うだろう。となれば、日中の気温は、40度を軽く超えてしまうことになるのだろうか。
カイロ市内で日中を過ごし、夕方の国内線でアスワン空港へ移動。
所要時間は、およそ2時間。
空港近くのホテルで1泊し、翌朝、車でナセル湖の船着場へ向かう。
この日から、7泊8日のフィッシングサファリが始まることになる。
今回のテレビ取材のテーマは、2つ。
1つは、陸っぱりで30キログラム以上のナイルパーチをキャッチすること。
フィッシングボートをあちこち点在する島に着けてもらい、その島の周囲を歩きながらキャスティングスタイルでナイルパーチに挑むのである。
シーバス好きのぼくにしてみれば、ほぼシーバスフィッシングと同じスタイルで挑める、陸っぱりゲームがこのうえなく楽しい。
前回の釣行では、陸っぱりで25キログラムのナイルパーチを仕留めているため、今回はそれ以上、できることなら30キログラムを超す大物と渡り合いたいと考えたのである。
もう1つのテーマは、トローリングでひたすらでっかいナイルパーチを釣り上げること。
これは、ぼく個人のフィッシングスタイルとしては必ずしも本意ではないのだが、ここでの最もポピュラーなフィッシングスタイルを紹介しておく必要があるだろうと考えてのことである。
やるとなれば気合を入れて挑んでみたい。陸っぱりではなかなかお目にかかれないような大物がヒットしてくれればありがたい。
ナセル湖にはこんなに大きなナイルパーチが生息しているんですよ、と、広く一般に知らしめることができるのなら、それはそれで大いに意義あることと考えたのである。
最初の3日間は、ガイドのトローリングの誘いには一切応じず、ひたすら陸っぱりゲームにこだわってあちこち釣り歩く。
4月の釣行では岸近くにあれほど見えたナイルパーチが、ほとんどいない。
前回魚影の濃かった島に上陸し、期待を込めて岩陰を覗いても、その都度落胆を繰り返すばかりである。
シャローミノーをフルキャストし、ファストリトリーブでささっと引いてくれば、どこからともなく魚が現れていともたやすくヒットしてきたあの現実は、いったいどこへ消えてしまったのだろうか。
ちょこんちょこんと泳がせたトップウォータープラグにドカンと躍り出たあの衝撃は、果たして夢だったのだろうか。
全ての原因が、水位と水温の急激な変化にあるのだろうと気付くまでに、ぼくは丸1日の試行錯誤を費やすことになった。
水位にして1メートルの減水。水温は5度近くも上昇している。
その影響で魚たちは、水底深く潜り込んでしまったに違いないのである。
翌日からは状況を素直に受け入れることにした。
シャローランニングミノーやトップウォータープラグへのこだわりを捨て、ただひたすらシンキングミノーやディープダイバーを引きまくる。
遠くへ投げ、じっくり待って十分沈め、スローリトリーブでボトムをなめるように引いてくる。
答えはすぐに出た。
5メートル以上のレンジで立て続けにヒットがあり、3日目には20キログラムオーバーのナイルパーチを無事キャッチすることができたのである。